リフォームするならこのお店 --- コラム1 --- 
 
 
 
 
 
   
 
   
  一昔前、住宅設備機器と言えば工務店が勝手に商品を決めたものである。しかし近年、システムキッチンやシステムバスなど商品の高機能化が進み、また各メーカーのショールーム展開の影響もあって、現在では完全にエンドユーザーが決めるものとなった。
それにともない、急増したのがユーザーとの打ち合せである。
このユーザー打ち合わせ、営業マンの立場からすれば、まことに厄介な作業である。新築、リフォームに関わらず、ユーザーにとって設備機器選びは一大事、とにかく迷う、悩むの繰り返しとなり、例外なく長時間(少なくとも2時間位)かかってしまう。日々売上に追われる営業マンとしては、こんなことに手間をかけてはいられないのである。
 
 
この日、彼はある工務店に頼まれてユーザーとの打合せに臨んでいた。待ち構えていたのは、見るからに神経質で意地悪そうなおばちゃまであった。
内容はキッチンのリフォームである。彼はいつものとおり、扉のカラー決めから打合せをスタートさせた。
「どれがいいかしら」
「……」
「どうしようかしら」
「……」
「これでいいかしら」
「では、このタイプでよろしいですね」
「ちょっと待って。やっぱりイメージが暗いはねぇ」
「……」
思ったとおりの展開である。先が思いやられる。
「ダメだわ、決まらないわ。営業さん、あなたはどう思う?」
これもよくあるパターンである。こういう時は、当たり障りのない色を薦めるに限る。
「この色なんて、良いと思いますよ。一番人気がありますし」
「あら、センスのない色ねぇ。やっぱり男の人はダメね」
「はぁ……」
そして、仕様決め。
当然のごとく、シンクの大きさを悩んだり、ガス器具の種類が決まらなかったり、食器洗い機を付ける付けないで困ったり。一度決まりかけては、またはじめに戻ってやり直しの繰り返しである。
「やっぱりシンクを一番大きいのにするわ」
「えっ、そうするとキャビネットの構成が変わるので、全部やり直しになりますよ」
「あら面倒くさいのね。お宅は全然融通が利かないのね。他のメーカーにしようかしら」
おばちゃんもイライラしているようである。自分が好きで悩んでいるのに、まったく勝手なものだ。イライラは彼だって極限状態である。あまりにも決まらないので、「もう他のメーカーにして下さい」と言おうかと思った。しかし、口をついた言葉はこうだった。
「そうおっしゃらずに、なんとかお願いします」
営業マンの悲しい性。しかしおばちゃまは、想像以上のツワモノであった。
「あ〜ら、営業さんは大変ねぇ。今は景気が悪いからキッチン買う人なんて滅多にいないでしょう。私が買ってあげたら随分助かるでしょう」
――くっそ〜、こんなのたいした金額じゃないっつ〜の。オレのノルマはこんなもんじゃね〜ぞ!
かなりカチンときた彼。しかし、ここは機嫌をとらねばならない。
「そうなんですよ。ホントに助かります」
「ふ〜ん、あなた売れない営業マンなのね。負け組みね」
――ほっとけ!
お昼からはじまったこの打合せ。終わった頃には、もう外は薄暗くなっていた。たいした売上額にもならず、彼の大切な一日は過ぎていった。