リフォームするならこのお店 --- コラム1 ---
今月の売上もあまりよくない。
すこぶる機嫌の悪い上司は、長い間、各営業マンに提出させた書類を無言でペラペラとめくっていた。会議室にはその音だけが不気味に響いていた。
毎月15日頃に行われる定期営業会議。それに際して営業マンは、その月の売上見込みと納入交渉中の物件名、売上金額を記入した書類を提出する決まりとなっている。もちろんこの時点で目標数字に達しているならば、何ら問題なく会議は終了する。しかしこの不況の折、そんな夢のような話があるはずもなく、誰もがこの営業会議を身の毛もよだつ思いで迎えるのだった。
そして今月も、恐怖の会議が開催されていた。
長い沈黙のあと、意外にも上司は驚くほど優しい口調で言った。
「今月は、もうこれ以上いかないのか?」
誰ともなく語りかけられたこの質問に、答える営業マンは誰一人としていなかった。再び訪れた長い沈黙。この不甲斐ない部下たちに上司の怒りは一気に沸騰した。
「おいっ、どうなんだ!!」
先ほどとはうって変わった激しい口調に、運悪く上司の席に一番近かった彼は、仕方なくその質問に答えることにした。
「はい、これ以上は難しいです」
すると、またもや果てしなく続く不気味な沈黙が始まった。
何十分そうしていただろうか。会議に参加しているすべての営業マンは、肩を落とし、あるいはうつむき、この無言の圧力に必死に耐えていた。どうやら、すでに一言を発している彼にこの沈黙を破る義務がありそうだった。
「○○邸に洗面化粧台をツメてきます」
彼は思い切って、今月中に納入できる当てのない現場分の売上を申告した。
ちなみに、その月の売上に計上するためには、どのような形にせよ、倉庫から出荷したという事実が必要となる。売上を稼ぐために、まだ納入時期に程遠い現場であっても、無理矢理納入してしまうなんてことは、営業の世界では常識となっている。このような行為を俗に「ツメる」というが、彼はこのとき、まだ上棟したばかりの現場でろくに仕様も決まっていないような商品の「ツメ」を覚悟したのだった。洗面化粧台くらいなら最悪返品になってもキズは浅いという計算もあった。
とはいえ、洗面化粧台を一台ツメたところで、せいぜい20万円程度の売上増にしかならず、大勢に影響はない。すると、そんなことは先刻承知の上司は、力強くこう言った。
「ようし! ○○邸に洗面化粧台10台入れてこい。それで200万アップするな」
「ええっ・・・・・・」
あっけにとられる彼。これはさすがに冗談かと思い、思わず「ぷっ」と軽く噴き出してしまったが、それを見た上司は脂ぎった顔を真っ赤にし、机をドンと叩いて立ち上がった。
「何がおかしい! お前には気迫が足りないんだ!」
「す、すみません」
「あやまる位なら、気合いで10台ツメてこい!!」
「はぁ・・・・・・」
どこの世界に、洗面化粧台を10台も使う家があるというのだろうか。ああ、数字のない世界にいきたい・・・・・・。そう彼はいつも思うのだった。