リフォームするならこのお店 --- コラム1 ---
今年も花見の季節がやってきた。
毎年この時期になると、彼の脳裏に、5年前のあの日の悪夢がよみがえる……。
彼が担当するB建材の社長は、三度の飯より宴会好きという人で、当然のごとく花見は春一番の大イベントとなっている。もちろん5年前のこの時期も、取引先の工務店などを招待して、盛大に行われる予定となっていた。
「お前も花見に来るか?」
そう彼が誘われたのは、花見の5日前のことである。
当時はまだ前任者から担当を引継いで半年くらい経ったばかりで、ようやく社長とも打ち解け、人間関係ができつつあるときであった。誘われたときは、面倒臭いなと思いながらも、ここは信頼関係を築く絶好のチャンスとばかりに二つ返事で参加することにした。
「メーカーで呼んでいるのは、お前だけなんだぞ」
「えっ、そうなんですか! ありがとうございます」
そんな社長のリップサービスもあり、まんざらでもない様子の彼。しかし、それが社長の仕掛けた甘い罠であったことをすぐに思い知らされるのであった。
「お花見は今度の日曜日ですよね。何時に行けばいいんですか?」
「6時に来てくれよ」
「6時ですか? 結構遅くからはじめるんですねぇ。少し寒いかもしれませんけど、夜桜もなかなかいいですよね」
社長の謀略も知らずのん気なことを言っている彼に、社長は軽く笑みを浮かべながら、大きな青いシート2枚手渡した。
「みんな後から行くから、それで場所とっとけよ。桜が見える一番いい場所だぞ! 寝坊するなよ!!」
「……」
なんと、朝の6時であった。
そして当日。
この日はあいにくの大雨となった。中止だろうと思いつつも、彼は約束の6時に会場に行き、形ばかり場所を確保して皆が来るのを待つことにした。
しかし、1時間経っても誰も来ない。さらに30分待ってみたが、やはり誰も来る気配がないので、仕方なく社長に電話することにした。
「一応場所取ってるんですけど、今日は中止ですよね……」
「何言ってんだよ。酒もつまみもたくさん買ってあるんだぞ。やるに決まってるだろ。うちの倉庫で宴会だけやるぞ」
「そうですか……」
すぐに倉庫に来いという社長の命令に従い、急いで向かう彼。そこに待っていたのは、会場のセッティングというハードな仕事だった。
「みんな来る前に終わらせろよ」
「はぁ」
倉庫全体にベニヤ板を敷き詰めたり、テーブル代わりの台をつくったり、事務所にこもったきり出てこない社長を尻目に、彼は一人で会場のセッティングを進めていった。何故オレがこんなことをしなければならないんだ、と途中で何度も投げ出そうと思ったが、これも営業のうちだと自分に言い聞かせ、この過酷な仕打ちに耐えるのであった。
「終わりました。こんな感じでいいでしょうか?」
「おう、ご苦労、ご苦労。う〜ん、でも何か物足りねぇなあ」
そう言うと、社長はおもむろにのこぎりを持ち出し、配達用の軽トラックに乗り込んだ。
「おい、何ボケッとしてんだ。早く乗れ!」
「は、はい」
何処に行くのか疑問に思う間もなく、社長に言われるがまま彼は軽トラックの助手席に乗り込んでしまった。助手席から見える社長のふてぶてしい横顔、そして傍らに置かれた怪しげなのこぎり……。
――そうか。こののこぎりで桜の枝を切るつもりだな。まったく酷いことをするものだ。
そうこうしているうちに、川沿いの桜並木に着いた。すると社長は、素早くのこぎりを取り出し、あろうことか彼に渡してこう言うのだった。
「俺が見張ってるから、早く切り落とせ!」
「そ、そ、そんな〜」
桜の枝を切りながら彼は思った。
――もう営業なんてやめてやる〜。